試合のない夜は映画館へ アスレティックの映画祭で出会う、サッカーのもう一つの顔
試合のない週に、サッカーを見に映画館へ行く。スペイン北部ビルバオのアスレティック・クルブには、そんな楽しみ方がある。財団が開く映画祭「Thinking Football」は2013年に始まった。名勝負だけでなく、難民として生きた選手や、記憶を失っていく名監督の人生も上映する。映画を見た後は、作品に関わった人の話を聞ける。
代表戦の週に、街の映画館へ
会場はビルバオ中心部の文化施設、Sala BBK。財団は、本拠地サン・マメスの試合と重ならないよう、代表戦が行われる時期に映画祭を開いている。
2025年10月には13回目を迎えた。上映は無料で、席の事前予約が必要だった。クラブの開幕案内によると、この年も多くの上映回が満席になった。スタジアムに行かない日にも、街でサッカーを楽しめる場所があるわけだ。
名監督の記憶と、難民だった選手の人生
2022年の上映作品『Finding Jack Charlton』が追ったのは、アイルランド代表を率いたジャック・チャールトンの晩年だ。認知症を患った名監督の姿を通して、記憶や、自分が誰であるかという問題を描く。勝ち方を学ぶための監督特集とは、ずいぶん違う。
同じ年の『Nadia』は、アフガニスタンの戦争から逃れ、サッカー選手になったナディア・ナディムの物語。女子サッカーのスターという肩書きの前に、どんな人生があったのかが分かる。
上映後には、制作陣や元選手らが登壇する。チャールトンの作品では元アイルランド代表のアンディ・タウンゼント、『Nadia』では制作に関わった人たちが参加した。作品を見て浮かんだ疑問を、そのまま当事者の話につなげられる。
観客が選んだ映画の賞金は、社会活動へ
2024年に観客賞を受けたのは『Copa 71』。1971年にメキシコで開かれた女子の国際大会を取り上げた作品だ。映画祭の紹介では、女子サッカーの歴史の中で長く忘れられていた大会として扱われている。
観客賞には3000ユーロの賞金がある。ただし、受け取った制作側は全額を自分たちで選ぶ社会活動に寄付する。映画を選ぶ観客の一票が、上映の外にも届く仕組みになっている。
自分のクラブ以外の人生にも出会える
クラブが開く催しでも、主役はアスレティックの選手だけではない。アイルランドの監督、アフガニスタンから逃れた選手、メキシコの女子大会。サッカーを入口に、国も時代も違う人の暮らしに触れられる。
ふだんは得点や順位で見ている人にも、試合では分からない人生がある。ビルバオの映画祭が用意しているのは、そうした話を知ってから、またサッカーを見る時間だ。
