999年借りる契約は、所有と何が違う? ミルウォールが10年の土地争いを終えた日
ミルウォールFCは、ロンドン南東部バーモンジーに本拠地ザ・デンを置く。2026年3月、クラブとルイシャム区は土地の999年賃貸借契約へ署名した。数字だけなら、ほとんど永久に見える。ただし、売買ではない。2016年の強制収用案から続いた争いを終わらせたのは、所有することより、同じ場所で次を決められる長さだった。
決まったのは2024年、署名は2026年
新契約は一日でまとまったわけではない。ルイシャム区議会は2024年5月、ザ・デンと周辺地について999年の賃貸借契約をクラブへ与える方針を決めた。ミルウォールも同月、原則合意を発表した。
実際の署名は2026年3月20日だった。The Guardianは、クラブと区が同日朝に契約を交わしたと報じている。2024年は方針決定、2026年は契約成立。この二つを分けると、長い数字の前に、合意文書を詰める約2年があったことが分かる。
争点はピッチではなく、駐車場だった
対立の中心はスタジアム本体だけではなかった。区は周辺再開発のため、クラブにとって重要な駐車場などを強制収用する案を進めていた。
強制収用は、公共目的のため、自治体が所有者の同意なしに土地を取得できる制度だ。この案が実行されれば、ミルウォールは本拠地運営に必要な土地を失い、ロンドン南東部から移る可能性もあると訴えた。ファンや地域の反対が広がり、計画は2017年1月に断念された。
その後の独立調査は、区による手続きに不正はなかったと結論づけている。対立が大きかったことと、不正が認定されたことは同じではない。
999年借りても、買ったことにはならない
ここが少しややこしい。999年は人の一生をはるかに超えるが、公表資料が示す契約の形は賃貸借だ。土地の売買や、所有権そのものの移転を発表したものではない。
それでもクラブにとって意味は大きい。旧契約にあった周辺開発の制約が外れ、ザ・デンと周囲を一体で考えられる。数年ごとの更新や退去の不安を抱えず、施設と収入源へ長期投資できる。999年という数字が与えたのは、所有者になる肩書より、自分たちで将来案をつくる時間だった。
クラブと区は、互いなしに動けない
関係をつなぎ直したのは、2022年にクラブへ戻ったマネージングディレクターのマーク・フェアブラザーと、ルイシャム区長のブレンダ・ダクレスだった。フェアブラザーは、クラブと区は互いなしに運営できないと話している。
接点になったのが、地域活動を担うミルウォール・コミュニティ・トラストだ。約40年前の設立には区も関わった。新契約は、試合会場だけでなく、地域向け活動の施設を守るとクラブ側は説明する。土地問題の解決は、観客席の将来と、試合のない日に使われる場所を同時に扱う。
次は、残すための開発になる
契約で道は開いたが、完成図はまだ一つに決まっていない。The Guardianは、使われていない周辺地に最大1000戸の住宅を建てる案がある一方、スタジアムを上へ増築するのか、角を埋めるのかは明確でないと報じた。
フェアブラザーが残したいと語ったのは、観客がピッチに近いザ・デンらしさだ。再開発で収入を得なければ長期契約を生かせない。変えすぎれば、本拠地を守った理由が薄れる。999年契約は結論ではない。クラブが「残すもの」と「建てるもの」を、区や地域と決めるための出発点になった。
