17人の専任担当と500試合超 アーセナル戦で警察が目立たなかった理由
ロンドン北部のエミレーツ・スタジアムで、2026年9月6日に行われたアーセナル対チェルシー。約6万人が集まる一方、警察を大人数で目立たせる配置は選ばれなかった。スタジアム内の初動を担ったのは、約1000人のクラブ側要員だ。ロンドン警視庁では、17人のクラブ専任担当が年間500試合超の準備に関わり、必要な場所へ人を置く。安全を守る仕事は、警官を何人並べるかだけでは決まらない。
17人の仕事は、キックオフより前に始まる
ロンドン警視庁には、クラブを専任で受け持つDFOが17人いる。DFOはDedicated Football Officerの略で、クラブ、警察、サポーターの間をつなぐ専門の警察官だ。一人が一つのクラブを継続して担当し、試合当日の指揮官と準備を進める。
同庁が1シーズンに扱う試合は500を超える。17人は当日の出動人数ではなく、クラブごとの情報を追う専任担当の数だ。各試合は、両クラブのサポーターに関する情報、距離、直近の経緯、キックオフ時刻などで危険度を決める。アーセナル対チェルシーは、指揮官から中程度の区分とされた。
スタジアム内では、クラブ側の約1000人が先に動く
アーセナル側は、スチュワードと対応班を合わせて約1000人を配置した。スチュワードは客席案内だけでなく、規則違反や危険が起きた時に最初に動く運営スタッフだ。クラブの管理区域では、このチームが初動を担う。
英国のスタジアムに警察が常に入るわけではない。クラブが特別警察サービスを依頼し、警察が受ければ、クラブが費用を負担する。この試合でアーセナルは、PSUと呼ばれる警察支援部隊を一つ、場内に置くよう求めた。一つのPSUは警部1人、巡査部長3人、巡査約21人で構成される。場内へ入っても、クラブ要員に代わるのではなく、必要な時に介入する役割だった。
20人のスポッターは、同じクラブを追い続ける
この日の現場には、スポッターと呼ばれる実務担当の警察官が20人いた。普段は地域の警察署などで働きながら、試合日は同じクラブを継続して受け持つ。チェルシー担当者の一部は、アウェーファンが集まるロンドン中心部のホルボーンから地下鉄での移動を追った。
仕事は遠くから群衆を眺めることではない。声をかけ、人数や雰囲気を把握し、問題が起きる前に計画を修正する。テムズバレー警察も、DFOの仕事を事前準備、クラブとの連絡、サポーターとの関係づくり、必要な証拠の収集まで含むものと説明する。同じクラブを継続して受け持つ点が、一般の機動隊との役割の違いになる。
警官が目立たなくても、担当する場所は広い
場外では、通行者が避けられる導線と告知を設けたうえで、顔認証の試行も行われた。2時間で警察が声をかけたのは6件だった。ただし、指揮官自身が抑止効果は測れないと認めている。場内には女性や女児への暴力を警戒する3人の班も置かれ、ハーフタイムには医療、消防、自治体、プレミアリーグ、鉄道警察が情報を合わせた。
試合後に整理された事案は12件で、逮捕2件と警察への報告10件だった。これは一試合の記録だ。全国の2025-26シーズンでは、規制対象試合に関する逮捕とその他の警察対応が1963件あり、54%がスタジアム内で起きた。半数近くは場外に及ぶ。男子の対象試合では観客10万人当たり4.0件だった。件数の少なさと、駅や道路まで続く担当範囲を同時に見ると、警備が観客席だけで完結しない理由が分かる。
