父が手放したトッテナムの年間席 娘ジェマが女性40人超のチームを率いるまで
情報確認日: (JST)
レス・ダーヴィルは、長年持っていたトッテナムのシーズンチケットを手放した。58歳でパーキンソン病と診断され、友人にも話せず、外へ出ることが難しくなっていた。娘のジェマが連れていったのは、ワトフォードの練習場で開かれるウォーキングフットボールだ。8年後、ジェマは同じ病気と暮らす36〜66歳の女性でつくるイングランドチームを率いている。
父を連れていった一度が、娘の仕事になった
ジェマが父を連れていったのは、ロンドン北郊にあるワトフォードの練習場だった。そこでは「ファイティング・フィット・フットボール」という、パーキンソン病の人向けの活動が開かれている。レスはその後も通い続けた。
ジェマが「サッカーが父の人生を救った」と話す時、指しているのは治療成績ではない。家に閉じこもっていた父が外へ出て、仲間と過ごすようになった変化だ。
娘も10歳からサッカーを続け、子どもを指導した経験があった。父の大会をセント・ジョージズ・パークで応援していた時、アニー・ブースから声をかけられた。セント・ジョージズ・パークは、イングランド代表が使う中部スタッフォードシャーの拠点だ。ブースは、パーキンソン病の女性向けチーム「パーキンソンズ・パイオニアーズ」を立ち上げようとしていた。ジェマは、その最初の指導を引き受けた。
全国から来るから、練習はソリハルで月1回
2023年の初回練習に来たのは3人だった。3年余りがたった2026年には、参加者が40人を超えている。会場はイングランド中部のソリハル。マンチェスター、ミルトン・キーンズ、南西部のデヴォンなど、離れた地域から集まる女性の移動が一方へ偏らないように選ばれた。全体練習は月1回だ。
その頻度でも、参加者は練習が終わるとすぐには帰らない。食事をとりながら、症状や普段の対処について話す。パーキンソン病は同じ診断名でも、現れる症状や動ける範囲が人ごとに違う。月1回の練習は、サッカーをする時間と、毎回病気を一から説明せずに話せる時間をまとめている。
走らない。接触しない。専門の理学療法士もいる
ウォーキングフットボールは、ボールを持っていない時も走れない。ジョギングも反則で、常に片足を地面につける。小さなピッチとゴールを使い、試合は通常6人制。ウォーキング・フットボール・アソシエーション(WFA)は、接触を伴わない競技と定めている。
パイオニアーズでは、横や後ろからのタックルを認めず、正面からボールへ入る。オフサイド、ヘディング、スローインもない。パーキンソン病を専門とする理学療法士が、準備運動と整理運動を担当する。安全のための共通ルールに、選手ごとの動きへの目配りを足している。
英国の患者支援団体Parkinson’s UKは、週2時間半の身体活動が症状の管理に役立つと案内している。週2時間半は一般的な目安で、本人に合う活動はそれぞれ違うとも説明する。レスの変化と選手たちの実感は、このチームで起きた経験として受け取るのが正確だ。
この「イングランドチーム」は、誰が選んだのか
WFAは2025年に選考会を開き、パーキンソン病の女性による初のイングランドチームをつくった。選手は36〜66歳で、ワトフォード、ドロイトウィッチ、ベッドフォードでも練習してきた。ジェマはパイオニアーズでの指導を経て、初代監督に選ばれた。
このチームを提供しているのはWFAだ。イングランドサッカー協会(FA)とWFAは2026年8月13日に提携を発表し、FAが競技の統括団体、WFAが全国普及パートナーとなった。WFAは引き続きイングランドチームも提供する。統一ルール、選手・審判登録、大会認可の共通手続きは2027年から導入される。
2026年9月11日時点で、チームは翌12日出発のトロント遠征を控えている。1週間の日程には、米国の40歳超と60歳超の女子チーム、男子チームとの試合がある。現地でパーキンソン病の人向け体験会も開く。代表戦と普及活動を同じ遠征で行う計画だ。
